インスピレーションを与え、自分を育ててくれたご本のご紹介です。随時書き溜めていきたいと思います。

「コメディカルのためのピラティスアプローチ」by 中村尚人 長年ダンスや動き、ピラティスを実施し指導させていただいている中であらためてピラティスとはそもそも何だろうか?という疑問が生まれ、色々な書籍を読んでいく中で出会った本です。理学療法士の著者が体の仕組みを細かく解説し展開しています。その詳細な解説はもちろん素晴らしく、実践の効果を大きく底上げする内容なのですが、中でも私が個人的に感銘を受けたのははじめの方にある「医療」の視点と「アート」の視点、と題した章。ピラティスメソッドの創始者のピラティス氏が発案したコントロロジー(ピラティスと今呼ばれているメソッドの元の名称)が発展したのはニューヨークのダンサー達がこぞってスタジオに集まり、自己の潜在能力を伸ばすトレーニングを積んだという歴史がある、とし、ピラティスメソッドが持つ医療的な役割の大きさをリスペクトすると同時に、そのアートの側面、美しさや潜在能力をじゅうぶんに発揮させる、そんな役割もあるのではないかと語っているところです。日々クライアントさんの動きに寄り添わせていただいて感じることを読ませていただく思いでした。

「ポリヴェーガル理論入門」by ステファン・ポージェス   私がこの理論を知ったのは、コンティニュアムという自分が現在学び実践しているソマティック・ムーブメント教育のモダリティを共に学ぶ仲間から聞いたのがきっかけでした。コンティニュアムではヒトの体液の動きを感じ、動いていきますが、ポリヴェーガル理論で取り上げられる「迷走神経」の機能を、筋膜や表情筋、眼球、舌や鼻腔などを流動的に動かしていくことで副次的に整えるモダリティでもあります。

ヒトは社会的な生き物であり、社会での安心と安全の感覚を持ってはじめて、心身共に健やかであれる生物であること。ポリヴェーガル理論は迷走神経の複数の機能を明らかにし、脳神経の状態が生理機能や心理に及ぼす影響を説き、さまざまな分野の臨床への応用の扉を開いています。これまで心身症や心理の障害とされてきた多くの症状(鬱や引きこもり、興奮と引きこもりの繰り返し、ショックによる失神や、はたまた人混みの中での声の聞き取りの困難など)が、迷走神経の機能不全から生じている可能性を示しています。

2022年にこの理論に出会えたことで心理を神経の機能を介したひとつの生理現象としても捉えることができたことにより、これまで雲を掴むような感覚であった問題が、対処可能な現象となりうる可能性を感じました。また、「気持ちが身体をつくる」だけではなく「身体も気持ちをつくる」という肉体から精神や心理へのルートが迷走神経の機能を介して明確になることで、いかにヨガやピラティス、コンティニュアムや気功など、さまざまなソマティックワークの実践が心理に働きかけることができるかが理解できます。今日、自閉症スペクトラムや発達障害、そのほかPTSDなどのトラウマ後の症状を抱える子供や大人が多いかと思います。これには多くの原因があると思いますし、さまざまな働きかけが有効かと思いますが、ソマティックワーク、身体からのアプローチが担うものも大きく、辛さを感じていらっしゃる方々のお役に少しでも立てればという気持ちになります。一読をおすすめする書籍です(以下はコンティニュアムとポリヴェーガル理論について著者のステファン・ポージェス博士が語っている動画です)

「Taking Root to Fly: Ten Articles on Functional Anatomy」by Irene Dowd ソマティック教育のひとつである Ideokinesis を軸に著者の理論が展開する論文集です。著者であるアイリーン・ダウドはニューヨークのジュリアード音楽院ダンス科の解剖学の教授であり、Ideokinesis創始者のMabel Toddの弟子であったLulu Sweigardの跡を継ぎジュリアードでの教鞭に当たった方です。私はカナダ国立バレエ学校時代に毎年母校を訪ね講師陣へ解剖学を説いていたアイリーンのこの本を、学校付きの理学療法士から受け取り読みました。イメージを介して神経へ働きかけるIdeokinesisの手法は、当時ソマティックの分野を知らなかった10代のバレエ生徒だった自分にとっては青天の霹靂でした。既存の神経回路を通してトレーニングを積む限界を感じていた当時でしたが、この本に出会い高い効果を実感すると共に、「からだ」という神秘や芸術性に気づき、共感し、出会わせていただいた、そんな本でした。現在Amazonでは大変高価なようですが、ご来所されてご興味ございます方には一部にはなるかと思いますがコピーをお渡しできます。

「パリ・オペラ座のバレリーナ」

1970年生まれのフランスのバレリーナ、ミテキ・クドーの書籍です。

ミテキ・クドーは、世界的に著名なパリオペラ座のエトワール、ノエラ・ポントワの娘さんで、日本人のバレエダンサーであり教師のお父さんとの間に生まれています。

現代ではクラシックバレエも、アクロバットの技を全面に出すようなスタイルが目立つようになっています。ひとつ前の時代のエトワールであったノエラ・ポントワの踊りは体を通してストーリーの情感を観客に伝える、とてもエレガントなものでした。そんなお母さんを見て育ったのでしょう。ミテキ・クドーのどこかやはり東洋的で知的な在り方に私はとても惹かれます。

この本にはそんな彼女の、バレエや自分の職業、芸術に対する姿勢が滲み出ています。日々の食事やボディケアなど、ひとりのバレリーナの日常を語っていますが、しっかりとした知識に裏付けされたルーティンはさながらプロのトレーナーのようです。ハーブやオステオパシーといった自然療法を日常のケアに取り入れている様子も細かく記されています。

何より、日々の努力と、自分を客観的に分析し、無理をかけることなく上達を図り、そして日々を味わい楽しむ彼女の姿勢に、大変動かされます。

本文より。ノエラ・ポントワとミテキ・クドー、彼女の夫のジル・エゾアールの稽古風景。