心や神経、トラウマからの回復には様々な療法があると思います。精神科や心理療法、心療内科、薬物療法。漢方、鍼灸、フラワーエッセンスやハンズオンヒーリングといった補完療法、ロルフィングやオステオパシーなどの身体整体法もそうですね。ソマティック・ピラティス岐阜が提供するソマティックなアプローチも、そのひとつです。
トラウマといっても大変深刻なものから日常的に起こる小さなショックから生じるものまでさまざまです。トラウマは誰もが抱えているとも言えますね。
ソマティックなアプローチって?
ソマティックなアプローチとは、「心や神経、脳といった上部を変えることで下部の身体を変えるトップ・ダウン」の方法(心理療法等)に対して「下部の身体を変えることで心や神経、脳といった上部を変えるボトム・アップ」の方法です。
それぞれの療法には特有の利点がありますが、長年に渡り自分自身のトラウマからの回復を通して思うことがあります。それは、しっかりと順序を踏まえるのが近道かつ安全ということです。トラウマや心理的、神経的な不調はさまざまなことが複雑に絡んでいるため、個人に固有の順番や取り組み方が必要であり、ベストを探るのは専門職の人であっても大変難しいことです。とはいえ、ひとつ言えることは再トラウマ化という、神経や脳が古い反応のパターンを再体験するフラッシュバックを起こさないことです。フラッシュバックを起こしてしまうと、解除したいと当人が望んでいる古い神経パターンを逆に強化してしまいます。
また、過去に原因を探るやり方には高度な視点が要求されるため、注意が必要です。過去を思い出し、そこに原因を見出すことはややもすると現在の自分の反応を肯定し、過去を言い訳にする結果となり、不調からの改善のための対処を阻むことが多いからです。
じゃあ、ソマティック・ピラティス岐阜ではどんな方法を提案しているの?
上記のことからソマティック・ピラティス岐阜では、ソマティックなアプローチであるボトム・アップの方法(身体を変えることで心理や神経の状態に変化をもたらすこと)をご提案しています。過去のパターンは現在の身体のパターンに表れています。ですから、身体を整え変化させることは過去からのパターンの解放に繋がります。心や身体の改善の道は一言で表現するならば「過去に作られたパターンを緩め、新しい神経回路を培うこと」です。
具体的には、どんな順番がいいの?
第1ステップ
「生活習慣の改善」
寝る・食べる・運動する。これを継続的に徹底して行います。心身のバランスには自律神経のバランスが鍵ですが、「寝る・食べる・運動する」というこのシンプルな繰り返しで培われます。心や人間関係等の悩みは当人には大変辛いものであるため、どうにか原因を探り、解消したいと一生懸命に思考を巡らせ、良い対処法を見出そうとするものだと思います。しかし、思考したい誘惑を強い意志で拒み、時間になったら寝る。時間になったら食べる。時間になったら運動する。これを継続して(少なくとも半年)行います。消化器官を強化し、身体を整えることで止まらない思考は収束に向かいます。生活のルーティンを守ること、それを第一の優先順位にすること。これを遂行するには強い意志が必要であり、人によっては第一ステップの「生活習慣の改善」が何より大きな山となり得ますが、この山を超えて初めて、次のステップの取り組みが有意義なものとなると言えるでしょう。参考記事「生活習慣の大切さ」
アメリカのマサチューセッツ州ブルックラインのトラウマセンターの創立者でありメディカルディレクターであるベッセル・ヴァン・デア・コーク著の「身体はトラウマを記録する」は、トラウマが脳や神経、身体に及ぼす影響をさまざまな検査の結果を交えて説明する画期的な書ですが、この中には次のようなステートメントがあります「呼吸、食事、睡眠、排便、排尿はあまりに根本的なので、私たちは心と行動の複雑さについて考えている時にその重要性をあさり無視してしまう。だが、睡眠が妨げられたり、腸が機能しなかったり、常に空腹感があったり(トラウマを負った子供や大人がしばしばそうであるように)触れられただけで思わず悲鳴をあげたくなったりすると、生体全体が均衡を失う。精神の問題のじつに多くが、睡眠や食欲、接触、消化、覚醒の困難を伴うのには驚かされる。トラウマの効果的な治療法はどんなものであれ、こうした体の基本的な「維持管理業務」に取り組む必要がある(2016年、ディア・コーク著、柴田 裕之、紀伊國屋書店)」
参考となる指標としては中医学でいうところの睡眠障害や対人恐怖などが強い「腎虚」や、消化力が弱く気分が落ち込んだり考えすぎて心配になり、また心配から恐怖感が生じる「脾虚」タイプの方々、またはコアエナジェティクスの性格構造論でいうところの夢想癖や逃避傾向のあるスキゾイド防衛や不安感の強いオーラル防衛が強く出る方々はまずこの第1ステップの「生活習慣の改善」を継続的に、徹底的に行い、栄養が吸収できる消化管が出来るのを見守り、体温を上げる筋肉を培う必要があります。このような方々が第1ステップ〜第3ステップを飛ばして第4ステップ、第6ステップの取り組みを開始することは、逃避傾向や過去の出来事を言い訳としてしまう傾向を強め、結果的に過去からの解放から遠ざかってしまうと個人的な経験から、またクライアントの方々を見させていただく過程で感じています。
第2ステップ
「運動」「整体」
第1ステップを確実に実行する強い意志と行動と同時に、第2ステップを行います。当店で提供させていただいているメニューでは「ソマティックピラティス75-90分」がこの第2ステップに当たります。運動はそれだけで体液循環やホルモンの分泌、交感神経の刺激等「スッキリ感」「幸福感」をもたらしてくれますが、丁寧に骨格を観察し、整える形での運動や整体は、神経のバランスの取れた通りを促します。強調しますが、第1ステップの「生活習慣」の安定なくして第2ステップの「運動」「整体」を行なっても、結果が出にくく、また結果が長続きしません。必ず第1ステップありきと考えてください。
第3ステップ
「漢方等の補助薬」
フラッシュバックが起こってしまう方の場合、第1ステップと第2ステップを開始して間もない、またはフラッシュバックが強い場合にはこれを阻止することが古いパターン解除には欠かせません。私個人の場合ですと漢方医に処方していただいた漢方が大変有効でした。精神科に通われている場合には西洋薬もこのステップに当たります。
第4ステップ
「トークセラピーまたは認知の整理」
第1〜3ステップが集中的に継続でき、安定が見られてきたら、心理療法等のトークセラピー、または認知行動療法などで、自分の中で反応が起きやすいパターンや視点などに意識的に気づく取り組みを行います。個人的にはAIが使われているアプリのAwarefyが大変役に立ちました。ただ、この第4ステップは特に第1ステップと第2ステップが定着し(あるいは人によっては第3ステップも含む)自律神経を含む身体の状態が安定し、強い心理的(神経的)反応が起こらない状態があった上で取組むことが大切です。現在の心や身体の状態の原因の可能性としてセラピーの中で挙げられるであろう過去の出来事に執着せず、むしろ新たな視点を持てる程に安定してはじめて、有益なものとなると思います。個人的には過去を思い出す形のセラピーではなく、現在の認知を整理する認知行動療法がおすすめです。
第5ステップ
第1ステップ〜第4ステップをすべて、継続的に行います。
第6ステップ
「エネルギー療法やソマティック療法などの統合のプロセス」
当店で提供させていただいているメニューでは「ハンズオンヒーリング」や「コンティニュアム」がこの第6ステップに当たります。神経が安定し、消化器官や筋肉を含む身体が強化されてきた段階で、より全身の統合やパターンの変化を図るために取り入れると有意義なステップになると思います。 ※慢性的なパターンの変化が目的ではなく、病後や怪我、手術後のケア、お体のメンテナンスでハンズオンヒーリングを取り入れたいという場合には、第6ステップではなく、随時受け付けております。
コアエナジェティクスの性格構造論に詳しい方は次のことも参考になるかと思います。
神経系や消化器系が弱く、恐怖心や不安感が強く出る傾向のあるスキゾイド防衛やオーラル防衛が強い方は第1〜5ステップの結果が安定してから(消化機能が安定し、筋肉がついてから)こちらの第6ステップに進まれるのが近道かつ安全だと思います(エネルギーの器が出来、触れられることへの恐怖感が減っているため、施術によるエネルギー循環を漏らさず効率よく行えるようになっているため)。上半身に力が入りやすく交感神経が優位になる傾向のあるサイコパス防衛の強い方には思考をゆっくりにし副交感神経を刺激し感情体の流れるような動きを養う目的で、また筋肉や脂肪を溜め込みやすく身体を砦のようにする傾向のあるマゾキスト防衛が強い方には筋膜を緩め神経系を穏やかにし全身の流れや繋がりの感覚を助長する目的で、最後に社会的に適正であることを優先し喉や口、耳といった器官に弱さが出やすい傾向のあるリジット防衛の強い方には体裁や文化的なパターンを緩め身体本来が求める動きや表現を助ける目的で、コンティニュアムはお勧めです。
※すべての方が第1ステップから順に取組む必要はございません。すでに第1ステップが安定している方、第3ステップの必要がなく、第4ステップの代わりに第6ステップに取り組みたい方もいらっしゃることと思います。もしもご自身の状態を把握するのにサポートが必要な場合は「初回メニュー作成カウンセリング」でお体の状態や目的等を伺い、アドバイスをさせていただきます。それぞれのステップは丁寧に、個の様子を見ながら徐々にバランスを取る形で進めることが大切だと思っております。
以上がソマティック・ピラティス岐阜の提案する心と身体の改善に取組む際の順番です。先に申し上げましたが、症状や状態は個々に大変固有なものであるため、上記の提案が当てはまらないケースも多いかと思います。あくまで長年自身のトラウマからの回復を目的にさまざまな療法を受け、また補完療法を学び提供する立場である私個人のひとつの意見として参考にしていただければ幸いです。また、私は多くの専門家がそれぞれの視点からひとりのクライアントを支えることが、複数の視点の支えが加わり、安全であると考えています。ソマティック・ピラティス岐阜に通われるクライアント様にも、私以外の優れた専門家の意見も取り入れながら、ご自身でご自身の改善の道を歩まれることをサポートさせていただけたら嬉しいと思います。
人が本来の健全さを取り戻すための道筋を、自分なりに理解し、まとめるのに数十年を要しました。その間に本当に多くの優れた、そして信じられない程に献身的な専門家の方々からお知恵と支えをいただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。
参考
「生活習慣と環境の変化によって自閉症が逆転した双生児女児の例」https://www.zerohedge.com/medical/autism-reversal-twin-girls-through-lifestyle-and-environmental-changes-new-study