運動は、誰もが気軽に取り入れることができる良薬だなと日々感じています。
炎症と運動
先日、皮膚に炎症が出ている方とセッションを行いました。お話を伺うと、日頃、交感神経が優位になることが多い様子です。皮膚科で炎症止めを処方していただいたとのことでしたが、セッションにいらした際にはまだ赤みが強い状態でした。お話から、ある程度神経の状態を予測し、適切と思われる運動を行ったところ、セッション前は炎症が10スケールうち7くらいだったとするとセッション後には2ほどに落ち着き、赤みはほとんど引いていました。運動が神経やホルモンに与える影響と、できるだけ副作用の少ない形でからだを整える可能性を持った運動は、やはりよいものだなと感じました。
この方にかぎらず、現代の生活は交感神経が優位になる要素が強いと思います。液晶画面による目への強い刺激、高いスピードと結果が求められる緊張度の高い仕事環境。こうした環境下で頻繁に見られる状態には不眠傾向や便秘、皮膚や関節の炎症などが挙げられます。
ピラティスを始めとする深い呼吸とコントロールされた動きを伴う低〜中程度のインパクトの運動は、副交感神経を活性化し、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの分泌を下げることもあり、炎症を緩和してくれる可能性を持っています。血液循環を促進することでリンパ液の流れを作り、炎症に寄与する水分の蓄積を解除します。また、呼吸により横隔膜をよく動かすため、近年ポリヴェーガル理論でも注目される迷走神経を横隔膜がマッサージし、よい状態にすることから、内臓の状態、また内臓を介して神経を良好な状態に導きます。迷走神経の状態がよくなることで得られる恩恵は睡眠、消化、知覚、精神状態、発達の状態など多岐に渡ることが知られています。
※低〜中程度のインパクトの運動は最高心拍数の50〜70%ほど、一般的な計算は「138-(年齢÷2)」くらいまでを指します。これを20分〜60分、週に3日〜5日行うことがよいとされています。しっかりとからだを動かすピラティスやバレエの基礎運動を20分に、ストレッチや呼吸練習、コンティニュアムやソマティックワーク等の呼吸を伴う運動を20分程度が、副交感神経を活性化しつつ、セロトニンを分泌させるのに適した運動ルーティンかと思います。
倦怠感と運動
一方で、炎症や交感神経が優位な状態とは反対の状態のアンバランスさを経験する方ももちろんいらっしゃいます。
副交感神経が過度に活性化されていると、倦怠感、ストレスがかかる際にお腹をくだす、すっきりとした起床が難しい、鬱傾向になる、脂肪の代謝が落ちるなどの身体状態を経験しやすくなります。
今までの経験から、こうした方々は運動があまりお好きではない場合も多いかなとは思いますが、運動から得られる恩恵は大きく、また個人差はありますが、短期間で見える結果や変化を感じやすいように思います。
こうした傾向がある方には、からだに意識をもたらす練習も含めたゆったりとした導入を行いつつ、途中にジャンプ等をとりいれた強度の高い運動を10分〜15分挟み、交感神経を活性化することで心拍数が上がり血液循環が良くなり、脂肪燃焼にも寄与する成長ホルモンや、多幸感をもたらすエンドルフィンなどのホルモンが分泌されます。また、からだを反る働きを持った背面の筋肉を鍛えることも、適切な交感神経を活性化させるための助けとなります。
交感神経が入りにくいために経験する不調をお持ちの方にはこうして、少し強度の高い運動を提案することが適している場合が多いのですが、そんなときにも最後にたっぷりとクールダウンとしてストレッチやソマティックワーク等の低いインパクトの運動を行い副交感神経をふたたび活性化することで過度に交感神経に偏らせることなく、コルチゾールの分泌を抑えながら安全に運動を継続することができます。
追加のケース
副交感神経に傾きやすい傾向のある方の中には迷走神経が背側に入りやすいために鬱状態や警戒心が強い、消化がむずかしい、大勢の人に囲まれた際に人の声が聞き取りにくいなどの不調を抱える方もいらっしゃいます。そんな場合には、心理療法士等の専門家にも入っていただきつつ、まずは安心・安全の場の提供が第一となるため、はじめから激しい訓練を提供することはありませんので、上記の例には当てはまらないことを付け加えさせていただきたいなと思います。
おわりに
日々、さまざまな方に触れ合わせていただき感じることですが、人間は物理的でメカニカルな機能を持ちながらも、その機能は大変高度で、常に環境に反応し調整をしながら、なるべくベストな状態を保とうとしています。専門的にはこれをホメオスタシスと呼ぶと思いますが、その生きた反応は大変に有機的であり、外に表現される形は非常に多様です。
美しく高度な反応を携えた皆様と接させていただき、その時の反応を見て、その方の性質を垣間見ながら、何が無理のない形であり、かつ肉体を強くしなやかに育てるための心地よい負担や課題なのか、思考を巡らせ実施することは楽しいく有意義だと感じます。