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なぜ毎日行っても翌朝には戻るのか ― 神経可塑性の時間スケール

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「昨日あんなに緩んだのに、朝になると元に戻っている…」
そう感じたことはありませんか?
それは失敗ではなく、神経が新しい動きを学習している途中のサインです。
筋肉が固まっているのではなく、脳がまだ“古い姿勢の地図”を使っているのです。

神経は「確認しながら」学ぶ

SenseBodyの実践を始めた最初の2週間は、神経が新しい動きの地図をいわば「RAM上」に描いている段階です。
この時期、体は変化とともに「リプレイ」を繰り返します。
せっかく緩めたのに翌朝戻るのは、脳が古いパターンを呼び戻して比較と確認をしているだけ。
ですから心配は必要ありません。これは脳の学習の一部なのです。

学びの過程で、脳は新旧の地図を行き来しながら、より適切なパターンを選び取ります。
この「揺らぎ」を経て、やがて新しい神経回路が定着していきます。

短期可塑性(Early LTP)と長期可塑性(Late LTP)

神経可塑性 (神経の“つながり方)が変わる現象には、2つの段階があります。
Early LTP(短期可塑性) と Late LTP(長期可塑性) です。

短期可塑性(Early LTP)は、数時間から1日ほどで消えてしまう「仮の記憶」のようなものです。
一方、長期可塑性(Late LTP)は、新しい回路を構造的に作り変える「本物の記憶」です。
短期記憶と長期記憶の関係に少し似ていますね。

ですから、最初のうちは変化が一晩で戻るのは当然。
筋肉が戻ったのではなく、神経回路がまだ短期可塑性の段階にあるためです。

抑制系が再起動するとき

SenseBodyで行うパンディキュレーションや意識的な動きは「抑制系(inhibitory system)」を再起動します。
これにより過剰に働いていたγ運動ニューロンが落ち着き、筋紡錘(筋肉のセンサー)の感度が下がります。「筋肉が長くなったら危険!」という防衛を緩和することができるのです。
つまり、体が「もう力を入れなくてもいい」と理解し始める。

ただし、この状態は一時的です。ここを理解することが重要です。
もし再刺激がなければ、脳幹や小脳は再び元のパターンを呼び戻します。
それが「戻る」という現象の正体です。

毎日の実践が「構造変化」に変わる

短期可塑性の状態が、48〜72時間以内に再刺激されることで、
神経は長期可塑性へと移行します。
このとき初めて、神経回路が構造的に再構築され、体は新しい姿勢を「記憶」します。

だからこそ、SenseBodyでは初期段階に毎日の実践をおすすめしています。
それは根性論ではなく、神経生理学的にもっとも合理的な方法だからです。

からだが学ぶ時間を信じる

変化が戻るように見えるのは、脳が新しい自分を学び直している途中だから。
その揺らぎを責めるのではなく、ましてや自己批判的になることもなく、
「今、神経が新しい地図を描いている」と見守ってみましょう。

からだは確実に学んでいます。
そのリズムを信じて、今日も静かに繰り返していくこと。
それが“神経の再教育”を完了させる、いちばん確かな道です。


“Stability within motion. A body that stands with gravity, not against it.”

— SenseBody: 「動きの中の安定を。重力とともに立つ身体を。」