
日々、セッションで皆さんと向き合い、自分の体や心と向き合っていると、
理論を越えて目の前に立ち上がる現象に、静かに心動かされます。
今日は「なぜ姿勢が整うと同時に、反応も、精神も、消化も、変化するのか?」
極端に言えば、「姿勢を楽なものにすること、精神の安定を育てること、消化や血圧などの生理的な
状態を整えることは副産物である。取り組みの本質は、神経の可塑性の回復、にある。」
そんな事をテーマに、J.A Kelsoの「Dyanamic Patterns, The Self-Organization of Brain and Behavior」を基に
見てみようと思います。まだ研究段階で、今後変化していく可能性は大いにありますが、
色々な理論があるのだなあと、興味を持っていただければ幸いです。
「こういう姿勢にしよう」と体の邪魔をしないでください
突然ですみません笑。これは私がセッションでよく、クライアントさん達にお伝えさせていただく声かけです。
「少しの間、ただ、体が自然と調整するのを待ってみてください。」
これまで一生懸命に良い姿勢を作るために様々な努力を重ねてきて、
そして良い姿勢や良い状態を手に入れたいとやってきてくださったクライアントさんからすると
「どういうこと??」
となるのも、ある程度は理解できます。
一方で、姿勢を「努力」や「外的な強制」で「作る」ことだけが結果をもたらすとは限らないのです。
水面の波紋
SenseBodyの根幹プログラムAxis〜アクシス では
大変穏やかで、細やかなエクササイズを、セッションの中に散りばめます。
ご本人の状態、反応を観察し、必要以上のものを入れないように、なるべく最小限のラインを見極めながら散りばめていきます(この、最小限が実は、脳や神経、ひいては全身のシステム更新の秘訣なのです)
ここではエクササイズはいわば、静かな水面に投げいる小石のようなもの。
小石が投げ入れられ、水面には動きが生じます。揺れが生じる。
そしてその揺れは、波紋となって、続く限り、遠くまで波及する。
波紋が広がり、ふたたび静かになった水面には、
先ほどの静かな水面の時とはまた、違った景色が映っているかもしれない。
風が吹き、鳥が飛ぶ。雲が太陽を隠し、そして太陽がまた顔を出す。
世界はいつでも、動いている。私たちの体もいつでも、動いている。動きがある状態、固定されていない状態を、神経の観点でいえば可塑性の回復と見ることができるのです。後でもう少し、詳しく述べますね。
脳の、小誤差の修正と更新
Prodictive Processingの予測誤差最小化という理論を使うと、脳は、
常に予測をしています。予測をし、出力をする。
多くの慢性的な「凝り」や「緊張」「反応」にはこの予測が関わっている。
予測とフィードバックの幅が大変狭い状態。予測に誤差がない状態。誤差が「危険」「脅威」と解釈し続けた結果、変化を拒んだ固定状態。
Axis〜アクシス では、ここで小さな小石のようなエクササイズを、 慢性化された状態に投げ入れる。
すると、筋肉や靭帯、筋膜といった人体の組織に、一時的な小さな変化が生じる。
体は「おや?予測と少し違うよ?え?ちょっと全身の調整をしてみるね。この変化を受けても、まだ立っていられるか、まだ大丈夫か、見てみようね」と、調整を行う。
しばらくして、ふたたび水面はある程度、落ち着く。静かに収束する。
収束ができたとき体は
「お。ちょっと変化を受けたけど、予測と違ったけど、大丈夫だったね。落ち着けたね。
じゃあ、予測を少し、書き換えておこう(慢性化を、少し、緩めてみよう)」となる。
これが、Axis〜アクシス のセッションで良く立ち上がる、更新の瞬間は言葉にするとこんな感じなのです。
収束?また昔に戻っちゃうの?
収束、と聞くと「どこに収束するのかな?」と思うのが自然かなと思うのです。
私は、疑問でした。理論を読んでいるときは。
でも、セッションで目の前のクライアントさんの生のシフトを目の当たりにしていますから、
明らかに「昔に戻る」ではないことは分かる。
では、どこに収束するのでしょう。その収束点は、脳を含んだ体は、どうやって決めるのでしょう?
システムが、最も安定しやすい状態を選ぶ
先ほどのように
①小さな変化が生じる
②「古い安定」に揺らぎが生じる
③全身が探索状態に入る。調整する(神経の可塑的ウィンドウ)
④相互作用の中で新しい協調のパターンが立ち上がる(自己組織化)
⑤収束し「安定」する。落ち着く。システムが、「安定」=持続可能だなとなる。
⑥新しい安定が維持可能であると判断されたとき、予測モデルが更新される。
ざっくり言えばこのような順序で新しい姿勢が作られていくのですが、
このとき、③の収束点は①が始まる前のものとは違ったものとなることが多い。
では体、脳は、何を選んでいるのかな?
ここではイギリスの神経科学者のカール・フリストンの Free Energy Principleを借りてきます。
体は①で「揺れ」を経験する。でもその後、全身の探索・調整もかけて、落ち着く。
ここです。「落ち着いた。」
それで脳を含む体はこう解釈する「落ち着いたな。と言うことは、安定、だな」と。上だと⑤。
安定。つまり、不確実性が低くて、エネルギー効率が良くて、破綻しにくい状態だな、と。
これが、生存には選ばれる、というのがフリストンの理論なのです。
セッションで立ち上がるものと一致します。
ではなぜ、姿勢の軸が変わると、他も変わるのか?
ところで話をひとつ前の ②変化(刺激)に応じて全身が調整を起こす に戻してみます。
セッションでは、新しい軸に、生体の自然な生理的な揺れが妨げられていない状態で立っているクライアントさんを目の当たりにします。
・トーンが全身に分布されている
・呼吸と姿勢が同期
・防衛の過剰反応が落ちる
全身が、最も楽で破綻しにくい状態を選んで、自然と秩序を作り出して立っている。
この全身の自己調整に、先に述べた J.A Kelsoの「Dyanamic Patterns, The Self-Organization of Brain and Behavior」こちらが登場します。Self-Organization、自己組織化。
もちろん、トップダウンやボトムアップの生理機能で説明もある程度はつくと思います。背中側の筋肉の収縮が起これば交感神経が入りやすくなる。交感神経が入れば心拍や血圧は上がるし、消化吸収は遅くなり、知覚もある程度シャットダウンされる。こんな風に。

液体の各部分はもはや独立して振る舞わず、一つの秩序ある協調パターンへと引き込まれる。
この概念は「線形安定性解析」から来ている。最初はランダムな振動の集合だが、
ある温度勾配では一部のモードは消え、あるモードは増幅する。
最も増幅率の高いモードが支配的になる。これを「slaving principle(従属原理)」という。
ランダムな初期状態から、特定の運動形態が選ばれる。その選ばれた協調パターンを記述するのが
order parameter である。そしてそのダイナミクスが、パターンが時間とともにどう形成・進化するかを決める。」
でも、細かくみていくと、そんな単純な脳が全身に命令する、全身が脳にフィードバックを送る、だけでは説明しきれない現象が目の前で起こります。アメーバが、環境に応じて全身の形を変えるように、脳がない菌類が一斉に目的地に向かって菌糸を伸ばすように、決定し、全体を秩序立て、形づくる力がある。
自己組織化。一言で言うと「たくさんの要素が相互作用する中で、中央の指令なしに、協調や秩序が自然と立ち上がること。」
神経の可塑性の回復って?
揺れが起きず、動きがない状態。慢性的な心理的な反応も、凝りも。
ふたたび動きを取り戻し、常に柔らかに応答し、微細に動き続けられる状態。
これが神経の可塑性が回復している状態。
自己組織化によって新しい秩序が立ち上がるとは、
形が整うことではなく、
状態が固定されすぎていないことを意味します。
揺らぎが許され、
揺らいでも戻れる。
この「戻れる幅」こそが、
神経の可塑性の回復と呼べるのではないかと、今は考えています。
しかしさて、「神経の可塑性が回復して、何かいいことあるの?」そんな風に思うかもしれません。大アリです。
いつも微細に動き続けている生きた体。気持ちいいも気持ち悪いも感じられる知覚。動きのある生き生きとした筋骨格。柔らかで動きのある感情。こうしたみずみずしい状態はやはり、外から見ても、みずみずしい。私は個人的に、こうした状態が立ち上がり始めるとき、美しいなぁと、感じます。