
SenseBody ではソマティック・ワークをお届けしています。
ソマティック教育とも呼ばれますし、SenseBodyで扱うのは具体的には動きを介したワークなので、正しくは「ソマティック・ムーブメント教育」となります。
ソマティック教育は「運動」や「筋肉トレーニング」の域を越え、神経系に働きかけ、心身の自己調整機能を培うモダリティ全体をを指す言葉です。
今日はそんな、ソマティック教育についてお話しさせていただきます。
ソマティック教育の目的
ソマティック教育にもさまざまなモダリティ(メソッド)がありますので、それぞれが具体的に掲げる目的は異なりますが、共通するところは
「身体の感覚に意識を向けることで、無意識の緊張パターンに気づき、より効率的で楽な動きや在り方を学習すること。
こちらが大きな目的となります。
近年流行のピラティスも、元々はソマティック・ムーブメント教育の中のひとつのモダリティでしたが、最近では筋肉強化のトレーニングの部分が強調され、一般的な筋肉トレーニングと大きくは変わらなくなってきているのが現状です。
ソマティック教育の代表的なものには、トーマスハンナのソマティクス、フェルデンクライス・メソッド、アレクサンダー・テクニーク、ボディー・マインド・センタリング(BMC)、ソマティック・エクスペリエンス(SE)、Ideokinesis、コンティニュアムなどがあります。 それぞれ個性があります。
ソマティック教育の中身
とても簡単に説明すれば、
「外側から形を整える」のではなく、「内側からの感覚(固有受容感覚)を通じて、神経系のパターンを書き換える」プロセスやプラクティス。
こんな風に言えると思います。
ソマティック教育と神経系の関係
ソマティック教育では、既存の神経系のパターンを再教育するという側面が強くありますが、
ソマティック教育と神経系の関係を3つに分けてみます。
①固有受容感覚」と「内受容感覚」を介し脳に情報を送る
筋肉の長さや関節の位置を感知する「固有受容感覚」と、心臓・血管・免疫の状態を感知する「内受容感覚」を介して脳に情報を送ります。データが更新されることで余計な緊張が自然と抜けてきたり(一時的に逆が起こることもあります)全身が調整を行います。
脳は基本的に常に、「大体こうくるだろう」「体はこの状況ではこの位置になるだろう」と予測を立てています。それに対して微細な誤差を故意に生じさせ、脳にデータの書き換えをしてもらう。そういったプロセスが行われます。
②神経の可塑性の性質を用いる
ソマティック教育では、微細な新しい感覚刺激を体に届けることで、古い回路を一時的に揺らがせ、新しい神経回路を形成することを促します。これにより、痛みやストレスに対する反応を変えることが可能になります。
③自律神経の自己調整力を育てる
これは、複数の理論をベースに展開することができる論点ですが、例えば近年注目されているポリヴェーガル理論をベースに考えると、闘争・逃走反応と呼ばれる過覚醒の状態やフリーズと呼ばれる背側迷走神経に固定された神経系(もしくは双方を急激に行き来するパターンとなった神経系)を、綿密に計算された微細な刺激を送り、一時的にシステムを揺らがせ、そして落ち着く(収束、新たなアトラクターに落ち着く、とも言います)という一連のプロセスを経て、神経系が新たな「安全である」という認識の幅を広げていく、つまりレジリエンスを培っていきます。
ソマティック教育に一般的に期待される結果
ソマティック教育では、神経という、大変スピーディーな応答をするシステムを扱うという文脈上、直接「結果」「目標」に向かうことはかえって、遠回りとなってしまうことが少なくありません。そのあたりを考慮した上で、一般的によく言われている結果を挙げると以下です。
身体
慢性的な凝りや、筋骨格の配列から来る関節の健康状態に対する変化。それによるパフォーマンスや呼吸の変化。
精神
感情調節の状態の変化、不安・興奮や安定性・不安定性に対する変化
認知
自己認識の深化や統合力(レジリエンス)の変化
SenseBodyの特色
数多くあるソマティック教育のモダリティですが、それぞれに特色があります。
一般的なソマティック教育
基本的にソマティック教育では「自由度を上げる」「感覚・知覚を育てる」「制約を緩める」という方向性を持ちます。
SenseBodyの場合
一方でSenseBodyでは、既存のパターンに新しいパターンを構築する作業を行います。その過程でソマティック教育の手法を用い、一時的に一般的なソマティック教育と同様「自由度を上げる」「感覚・知覚を育てる」「制約を緩める」は行いますが、あくまで新しいパターンの定着に方向を定めます。
それぞれの利点
一般的なソマティック教育とSenseBody、それぞれで目的に対して向き不向きがあるかもしれません。これについては別記事で述べているところではありますが、大まかには、一般的なソマティック教育は、「過度に安定があり、その状態を制限を感じている体や心」に適しているとも言えますし、SenseBody Axis〜アクシスは、「神経系の振れ幅が大きかったり過敏な傾向があり、新たな制限を必要とする体や心」に適している、とも言えるかなと思います。
参考文献
Hanna, T. (1988). *Somatics: Reawakening The Mind’s Control Of Movement, Flexibility, And Health
SOMAという言葉を創出した神経学者のトーマスハンナの代表的な本です。日本語でも出版あり。
The Polyvagal Theory: Neurophysiological Foundations of Emotions, Attachment, Communication, and Self-regulation
「安全」の感覚が神経系を介して心身の健康にどう影響するかを説いた、ソマティック・セラピーにおいて大変大きなインパクトのある理論です。日本語でも出版あり。
ヴァン・デア・コーク「身体はトラウマを記録する」
研究の第一人者がトラウマによる脳の改変のメカニズムを明示し、薬物療法の限界を示すとともに、ソマティック・ワークを含む身体志向のさまざまな治療法を紹介する本。目の前の患者が示す反応が記されたデータを前に、何が最善なのかを問う筆者の姿勢に感銘を受けました。
Feldenkrais, M. (1972). *Awareness Through Movement
フェルデンクライスの本。メソッドの具体例だけでなく、「努力すれば結果が出る」という既存の考えを覆す科学者・臨床家としての視点が書かれている小さいけれどインスピレーションに満ちた本。
Irene Dowd “Taking Root to Fly”
私がソマティック・ワークに17才の時に出会った最初の先生の論文集です。ジュリアード音楽院の元解剖学教授である彼女が、ダンス生徒のさまざまな例と身体の動きをその豊かな感性で描く論文。実際的なワークも多数収められています。https://www.irenedowdchoreographies.com/?page_id=62