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意図で動かさないという選択ー頭部セットから読み解く AXIS の神経構造

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AXISでは、すべてのセットに先立って「頭部のセット」から始めます。
これは神経構造に基づいた選択です。

頭部セットは、単に首や頭を整えるためのものではなく、AXIS全体の学習条件をつくるための「入口のセット」として位置付けられています。後に続く3つのセット「腰のセット、足首のセット、肩のセット」でも一貫して、頭部のセットで意識化した感覚を続けるように声かけをする、まさに全体の土台となるセットです。

本記事では、「入口のセット」の理由を神経制御の構造から順を追って説明します。

なぜ AXIS は「頭部」から始めるのか

頭部セットでは主に以下を扱います。

  • 眼球の微細運動
  • 舌の位置・運動
  • 後頭下筋群へのアプローチ

ごく小さな身体の動きです。これらはすべて、

  • 脳幹と直接連絡している神経経路
  • 前庭系と密接に関連する構造
  • 姿勢制御の初期段階に関与する部位

にあたります。

眼球運動は、動眼神経・滑車神経・外転神経を通して脳幹と直結しています。

舌の運動は、舌下神経・三叉神経と結びつき、頸部深層筋の緊張パターンと連動します。

頭部の位置は、前庭感覚を通して、全身の空間認知と姿勢制御に影響します。

このエリアに働きかけることで、大きな筋肉を直接操作するよりも先に、
全身の姿勢制御システムそのものにアクセスすることが可能になります。

随意運動系と自動調整系

身体の運動は、大きく分けて二つのシステムに支えられています。「随意運動系」と「自動調整系」です。

随意運動系

司令塔:大脳皮質・運動野

  • 「こう動こう」と意図して行う運動
  • 姿勢や動作の習慣が蓄積される領域
  • 比較的固定化されやすい運動パターン

ここには、これまでの「身体の使い方の履歴」が保存されています。

自動調整系

司令塔:脳幹・小脳・前庭系

  • 姿勢・バランス・呼吸を無意識に調整
  • 視覚、前庭感覚、深部感覚を統合
  • 常に環境に応じて微調整を行い続けるシステム

ここでは、固定されたデータではなく、可変的な調整プロセス が働いています。常に「今」を生み出し続けているシステム。

「随意運動系」は体に対して「姿勢よく」「ここを締めて!」など命令し慣れている現代の人にとっては使い慣れている系です。随意運動系と自動調整系のバランスのために、AXISの頭部セットがアクセスしたいのは後者です。

なぜ「意図して、その後、委ねる」のか

AXISは「意図を使わない」わけではありません。

意図を入口として用い、
その後の主導権を自動調整系に委ねる

という選択をしています。

実践の上でこの二つを、「いい塩梅」「いい調合」で使うことがとても大切になってくるわけですが、これには実はある程度の経験値と匠が要求されるのですね。理解すればすぐにできる、とはいかないかもしれませんが、それでも理解が伴っていると、プロセスは楽になるかなと思いますので少し説明をさせてください。

随意運動系が強く介入すると、
身体は過去の運動パターンを再生し続けます。体が固くなる感覚があるかなと思います。

一方、自動調整系が働くと、
身体は「今この瞬間の重力・空間・状態」に応答し始めます。こちらは、身体の抵抗が減るように感じるかと思います。

AXISでは、意図はあくまできっかけとして使い、調整そのものは脳幹・小脳・前庭に委ねることを推奨しています。これはオステオパシーにおいて「一次呼吸メカニズム(Primary Respiratory Mechanism)」と呼ばれる概念とも響き合う部分があると、私は感じています。第一の運動である呼吸に全身が応答する形で、意図することなく全身が連動を始めます。この微細な連動が常に起こっている状態が、固まらず、潤いが循環し、外部の状況に常に機能的に協調し反応できる、しなやかな状態と言えるでしょう。

なぜ現代の運動は随意系に偏りやすいか

多くの運動指導では、

  • 正しく動きましょう
  • 姿勢を保ちましょう
  • 力を入れましょう

という指示が来ることが多いかと思います。

これらはすべて、随意運動系を前提にしています。

結果として「頑張るほど動きが硬くなる」「意識するほど感覚が鈍る」「正そうとするほど呼吸が浅くなる」という現象が生まれます。

問題なのは意図というよりは、「いい塩梅」「いい調合」ができておらず、随意運動系が主導権を握りすぎてしまい、自動調整系がバックに息を潜めてしまっているということです。

AXIS はこのバランスを穏やかに取り戻せるよう設計されています。

AXIS における「軸」の定義

ところでここで「軸」とは一体何?という定義を確認したいと思います。

AXISでいう「軸」は、「固まった形」ではありません。

重力と環境に対して
身体がどれだけ継続的に応答できるか
という能力

をSenseBodyでは軸と呼んでいます。

固定された形ではなく、つねに更新され続ける「調整能力」であり、常に応答し、外部と内部がコミュニケーションを取り続けている動的な状態です。

頭部セットは、この調整能力を立ち上げるための入口に位置付けられています。

「常に更新され続けるもの」と「失われないもの」

AXISの実践を通して起こる変化は、大きく二つの層に分けて考えることができます。

① 神経調整の変化(より可逆的なもの)
② 身体組織・構造の変化(比較的持続しやすいもの)

神経系の変化は、「使用頻度に応じた回路の強化と弱化」によって起こります。

つまり、

古いパターンは、消えてなくなるというよりも使われにくくなる という形で変化します。

一方で、新しいパターンは
「利用可能な選択肢」として神経系に加わり、
繰り返し使われることで、徐々に強化されていきます。

自動調整系もまた、
継続的に使われなければ働きが弱まりやすくなります。
これは上の①「神経調整の変化」に該当します。

他方、深層筋や靭帯、足部の構造などに関わる変化は、比較的持続的な痕跡として残りやすい と考えられます。
これが②「身体組織・構造の変化」に対応します。

AXISは、ひとつの永続的で固定された状態を作ることを目的としているのではありません。

むしろ、

常に新しく更新される「今」に対して
体が自動的に調整し続けられる能力を育てていく実践

として捉える方が、AXISの本質に近いのではないかと考えています。

この自動調整が実際に起こっている状態を、実践を通して少しずつ自分の感覚として掴んでいくこと。
それが、AXISが大切にしているプロセスです。

セッションから日常へ

AXISの実践はセッション内だけのものではありません。

日常のすべての動作は、自動調整系の働きに支えられています。

立つ
歩く
座る
見る
呼吸する

姿勢を「意図的に作る」のではなく、
姿勢が「常に新しく順応し、生じている」ことに気づいていく。

頭部のセットはこれを可能にするための「入り口」です。


“Stability within motion. A body that stands with gravity, not against it.”

— SenseBody: 「動きの中の安定を。重力とともに立つ身体を。