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緩めて、軸を回復し、反復で安定させる ― SenseBodyメソッドのメカニズム

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姿勢を良くしたい、体の機能を上げたいと考えるとき思いつくのは「ストレッチ」や「筋トレ」が多いかと思います。かくいう私もカナダ国立バレエ学校時代、ずっと一生懸命に頑張っていました。たくさん遠回りや怪我をしました。自分の経験からも、また、臨床で見させていただくクライアントさん達の体という結果を観察させていただいても、やはりポジティブな結果を出すためには、体のメカニズムや取り組みの順番というのが大切になってくると感じています。

SenseBody Axisで扱うエクササイズは単に筋肉を伸ばす、鍛えるものではありません。「神経の抑制」という作用と神経の再教育を通じて「緩める→回復する→安定」のプロセスを踏み、姿勢を土台から変え、構築していきます。今日は神経や体の組織のメカニズムを振り返り、SenseBodyメソッドがどのように人の体に働きかけるのか、見ていきたいと思います。

変化への道ー概要

まずは姿勢や動きが変化するまでのSenseBodyが主軸としているソマティックのアプローチの概要をステップ・バイ・ステップでご紹介します。

Step1. 「弛緩」

相互抑制(reciprocal inhibition) や 腱反射抑制(autogenic inhibition) といった神経の仕組み。SenseBodyのワークはこれらを利用してまずは、不必要に働いている筋肉を「抑制」し緊張を解きほぐします。

Step2. 「ROMー可動域の広がり」

弛緩が起こると、関節の動きは自然に滑らかになります。

Step3. 「再学習と安定化 」

緩んだ後に「繰り返し使う」ことがカギです。緩み→可動域が広がり→反復する=定着と安定化

Step1. 「弛緩」ー弛緩が「再学習の入り口」になる理由

「神経を介し、姿勢を土台から変えていく」とは一体どういうことなのか。少し詳細に入っていきましょう。

猫背を直したいと思って、毎日背筋を鍛えています!

これについては今後「鍛えるだけでは硬さが増す理由」という別記事で説明したいなあと思っているのですが、筋トレに入る前にぜひ行ってほしいことがあります。「新しい姿勢」作りです

例えば「猫背を直したい」。猫背、ということは、背中が丸くなっているのがパッと目に入る形なのですが、実際には胸がキュッと縮こまっている状態です。

猫背で固まったままの状態で背筋の筋トレをするとどうなるか。「①胸の筋肉は慢性的に短く短縮して動きが少なくなっている状態に留まっている。②その上、それまでは慢性的に長く伸びてしまい動きが少なくなっていた背筋を、今度は筋トレによって胸と同じ、短く短縮して動きが少なくなっている状態にする。③こうなると、外見的には「猫背が良くなった」ように見えるかもしれませんが、前も後ろも、動きのない、硬くなった筋肉に挟まれて身動きが取りづらい状態になっていると言えます。」

筋肉は、伸縮することでその機能を発揮します。伸縮することで体を滑らかに動かすことができ、全身に血液を含む体液を循環させることができます。それを妨げてしまうと、もしかして一時的に見た目は整うかもしれませんが、いわゆる「凝り」や「痛み」を抱えたままの状態となってしまいます。

SenseBodyでは「緩め、整合してから、締める」モデルを提唱しています。

まずは全身を緩めて新しい姿勢を作る。そして新しい姿勢が安定する期間を経る。それから運動を取り入れて筋力を上げ、新しい姿勢や動作をサポートできる良い筋肉の状態を育てていくという順番です。

神経可塑性と神経の再教育(再配線・リワイヤリング)

ではどのように緩めるのでしょうか?

凝っているなと感じたら私は、マッサージへ行くことが多いかなあ。

マッサージは、血流を促したり、リンパなど体液を循環させるにはとっても良いモダリティですよね。穏やかなマッサージでは皮膚のC触覚繊維が反応して安心感や鎮静感が誘発されます。深いリラックス体験ができるということです。これももちろん、緩むことですね。ただし、マッサージや整体のような受け身の状態では神経の再教育は起こりにくいと言えます。つまり、一時的に緩んだ組織は元に戻ってしまいます。

SenseBody Axisではこの「神経の再教育」が中心となっています。

神経の再教育って?

神経は、神経細胞と神経細胞が繋がって回路を作っています。強固な回路は自動化され、あまり意識することなく特定の姿勢が保たれたり(猫背、反り腰、など)、動作も然りです。大人であれば最早、あまり何も考えなくてもコップの水を飲むことができます。本当はそこには沢山の動きが同時に起こっているとしても!

さて、「姿勢を変えたい」「痛みや不快のない体になりたい」という時には、これまで強固だった神経回路を変える、新しい神経回路を作っていかなければなりません。これを神経の再教育、神経の再配線(リワイヤリング)と言います。

マッサージなど受け身の施術で一時的に循環の良い状態を経験したり、整体などを受けて一時的に軸に沿った姿勢を体験し痛みや不快感から解放されるのではなく、長期に渡り心地の良い体としていくためには「自分の体の感覚に注意を向けながら→意識的に動き→それを繰り返す」ことで神経回路を新たにしていく必要があるわけです。

❶同じ動き・感覚・イメージを繰り返し体験することで、神経経路が安定して強化されます。1回の体験では短期記憶レベルで終わりますが、数十〜数百回の繰り返しで神経可塑性(LTP)が固定化します。❷ただ反射的に動くだけではLTPは起きにくい。意識を向け動く(どの筋が働いているか、どんな感覚があるか)ことによって、前頭前野や島皮質の活動が上がり、感覚入力と運動出力のリンクが強化されます。意識を向けることで、脳が「この回路は重要」と判断し、化学的変化(カルシウム流入 → NMDA受容体活性化)が誘発されやすくなります。SenseBodyで大切にしている「感じながら動く」の理由です。❸最も重要なのは「自分で動くこと」です。他者の手で動かされる受動的運動では、運動皮質からの遠心性信号(efferent signal)が発生せず、誤差修正ループ(小脳・大脳皮質の回路)が働きません。自分で動かす → 感覚フィードバックを得る → 誤差を修正 → 再学習、という感覚運動ループ(sensorimotor loop)が成立することで、神経可塑性(LTP)が「スキル」として定着します。
❶注意が向く:「今、どこが動いている?」と意識を向ける→前頭前野・島皮質が活動 → シナプス後ニューロンの脱分極が始まる=NMDA受容体のマグネシウム(帽子)ブロックが外れる準備 ❷自発的に動く:ゆっくり自分で筋を動かす・感じながら動く→グルタミン酸放出 → 感覚入力と運動出力の同時発火=Ca²⁺流入が起こる(神経可塑性LTP開始) ❸反復:シナプス後膜の感受性上昇→CaMKII → AMPA増加による回路固定、安定化

相互抑制(reciprocal inhibition)

SenseBody Axisでは「どなたでも、楽に、心地よく継続できる」をモットーにエクササイズを構築。驚くほどシンプルな動きを行います。ほんの少し体を意識し、順番通り楽なエクササイズを行い、また体を感じてみる。すると慢性的な動きの制限が緩み、骨が動き、楽な軸を感じるという方がほとんどです。

SenseBodyメソッドを支える神経を中心とした体のメカニズムには、今後も少しずつ複数記事に分けて、お伝えしていきたいと思います。今日はその中でも特に「動きのエクササイズ」で中心となる相互抑制と腱反射抑制について簡単に触れたいと思います。

筋肉には主動筋とその反対に位置し動く拮抗筋があります(ピンクの部分vs青の部分)。ピンクの主動筋が縮めば、介在ニューロンを介して青の拮抗筋は緩み(収縮の刺激が抑制される)、反対の場合はまたその反対が起こります。これを相互抑制と言います。

SenseBody Axisのエクササイズはこの仕組みを利用して、

  • 不必要に働いている筋肉を「抑制」し、
  • 拮抗する筋肉に自然な動きを取り戻し、
  • 全身の余分な緊張を解きほぐします。

神経を介して「緩める」行為で、新しい動きの学習の入り口となります。

Step2. ROM(可動域)が自然と広がる ― ストレッチとの違い

さてStep1. の「弛緩」が起こると、つまり骨の周りの筋肉や筋膜の慢性的な過伸長や短縮が緩み、組織が本来の伸縮性を取り戻すと、関節の動きは自然と滑らかになります。

先ほどの神経のメカニズムで述べたように、この時、神経を介して「もう力を抜いていい」と伝えることが持続する変化の鍵となります。反対に静止的で強制されるストレッチによる可動域の操作では、「伸張反射(ストレッチ反射)」といって、筋肉を構成する筋紡錘にあるセンサーが「長く引き延ばされた組織をそのままにしておいては損傷してしまう!」と危険信号を脊椎に送り、今度は脊椎の中枢神経が、そこから伸びた筋肉に対して「縮め!」と命令を送り、筋肉は収縮します。これを「伸張反射(ストレッチ反射)」と呼ぶのですが、つまり、過度で静止的なストレッチは余計に筋肉を硬くしてしまうリスクがあるということです。

この違いが「すぐ戻るストレッチ」と「持続する変化」の分かれ目です。

Step2. のROM(可動域)が自然と広がった状態のときに、先程の相互抑制の作用を使ったエクササイズを入れます。すると、あたかも、液体に浸ってユラユラとしている骨の連続が、チョンと指で一押しするだけで、無理なくゆらゆらと動くように、動きます。

Step 3. 再学習と安定化 ― 神経可塑性(Neuroplasticity)の働き

ここで再び、記事の冒頭で詳細を述べた神経可塑性と、反復による安定化のプロセスが入っていきます。Step2. のROM-可動域が自然と広がった状態のままでは、姿勢はすぐに元に戻ってしまいます。ここで何が必要だったか、覚えていらっしゃるでしょうか?そうです。「反復」です。新しい神経回路の構築と安定には「注意(意識を向ける)→動きの実行(自発的に動くこと)→反復」が必要でした。

SenseBody Axisでお伝えするエクササイズは、全身すべてを行うと、約1時間くらいの長さになります。行う内容はとてもシンプルな動きであり、徐々に体の重さが軸に沿っていき、立位をし、呼吸ができるようになるプロセスは大変心地の良いものです。個人セッションでは軸が通った状態になったその先の意識化を、丁寧に一緒に行っています。もしもこの変化のプロセスに魔法があるとするならば、魔法はこの一時的な姿勢の変化ではなく、それを認識できる瞬間を持つことだと思います。この認識により、日を重ねるごとに神経は新たな回路を記憶し、安定していきます。

新しい姿勢を得た後でー筋トレや交感神経的ワーク

筋トレや体幹トレーニングは、「緩めて、軸を回復し、反復で安定させる」のプロセスを経たうえで行うと

  • 姿勢を支える筋肉がバランスよく働き、
  • 神経と筋肉の協調性が高まり、
  • 機能性のある強さが得られます。

痛みや不調のある姿勢のまま筋トレをしてしまうと弊害が起こる場合が多いと先にお伝えしていますが、正しい順序なら大きな効果を発揮します。

おわりにーただ伸ばす/鍛えるだけでは届かない

姿勢を変えるには、

  1. 緩める(神経を介した弛緩)
  2. 回復する(ROMと軸を取り戻す)
  3. 再び使う(神経回路を強化する)

この3つのステップが欠かせません。

SenseBodyのエクササイズは「神経と筋膜を通して体のスイッチを切り替える」プロセスです。
外から形を整えるのではなく、内から神経を再教育することで、自然に、機能的に、持続する変化を目指します。


👉次回の記事では「骨は骨だけではずれない ― 姿勢を決める本当の要素」について解説したいと思います。

参考・読み物